期待値はプラスでも、負けたときに会社が残らない形だったのではないか

スカイマークのA380発注(2011年)を、判断の時点に戻って6段階の手順で設計し直した試算。数字を押すと根拠が開く ›

18.8億ドル
6機の発注総額。当時の為替で1,559億円、手元現金の4.5倍
58%
このモデルで史実の形を1万回走らせたとき、資金が尽きる割合。中央値は史実と同じ2015年3月期
35億円
2機確定と数字のゲートで組んだ場合の、史実と同じ経路での損失(試算)。史実では前払金253億円が戻らなかった
経路
何が、いつ起きたか
2010年の基本合意から、2015年の民事再生、2022年の再上場まで
p.2 ›
段階0→1 設定と逆算
基準ケースは成り立つが、線までが近い
搭乗率▲8.8ポイントか、為替95円で破綻する
p.3 ›
段階2 分布
当たれば大きく、外れる確率のほうが高い
構造で変わるのは、外れたときに会社が残るかどうか
p.4 ›
段階3 ストレス
史実と同じ経路を、二つの形で走らせる
6機確定は2015年3月期に破綻。2機とゲートなら737に戻って存続
p.5 ›
段階4 構造
三つの打ち手は別々の穴を塞ぐ
機数の段階化、為替と資金の手当て、解約の上限とゲート
p.6 ›
段階5 発動点
兆候は円安より前に出ていた
2012年4月の搭乗率。発動点は2012年7月に鳴る
p.7 ›
証人喚問
別のAIに設計を叩かせて検算した
指摘5点。結論は倒れないが、強さは下がった
p.8 ›
段階6 ヒトとAI
人が置いた四つの数字が結論を決めた
採る形と、鳴ったときに戻るかどうかも人が決める
p.9 ›
出典:スカイマーク有価証券報告書(2011年3月期〜2015年3月期)、決算短信、適時開示、報道。数値の多くは著者の試算。金額は億円p.1

兆候は円安より前、2012年4月の搭乗率から出ていた

2010年の基本合意から2022年の再上場まで。出来事を押すと出所が開く ›

4.5倍
発注総額 ÷ 判断時点の手元現金
発注総額1,559億円は、本業の営業キャッシュフロー148億円の10.5年分にあたる
支払いは3年間は年44〜82億円、4年目の2015年3月期に457億円が集中する計画だった
為替予約なし、社外取締役ゼロ、納入時の資金は「検討」。三つとも2011年6月の有価証券報告書に書かれていた
損失を戻せなくした構造を見る ›
出典:スカイマーク有価証券報告書・決算短信・適時開示、各社報道(各出来事の根拠パネル参照)p.2

このモデルでは、搭乗率が1割下がるか95円で資金が尽きる

段階1 逆算。推進側の前提(A380の搭乗率70%、83円、本業が年130億円を稼ぐ)では成り立つ。線までの距離を見る。スライダーを動かすと再計算 ›

式:現金=前年の現金+本業の営業CF(130億−1円あたり3.3億−搭乗率1ポイントあたり8億)−その他投資30億−A380の支払い(ドル×為替)+納入時の借入+A380路線の貢献
+496億円
A380計画だけの正味現在価値(割引率8%)。左の線とは別の計算
破綻しない。最低の現金は304億円
破綻する境界:737の搭乗率▲8.8ポイント(史実は▲10.1)/為替95円(直前5年の幅は80〜124円)
A380の搭乗率が65.6%を下回ると計画の価値はマイナス。納入時に借りられなければ、他が基準どおりでも破綻
左の線は会社全体の期末の現金(737の本業を含む)で「会社が持つか」を見る。右の数字はA380に関わる出入りだけを割り引いた値で「張る価値があるか」を見る
感度と読み方の注意 ›
モデル:会社の資金繰りとA380路線の採算を年次で見る、著者作成の試算モデル。構造A(史実の形)。運航費・運賃・為替の転嫁率は人が置いた仮定。計画の価値は残存価値を含み、破綻時は737の本業を失う損を含まないp.3

このモデルでは、史実の形は58%で資金が尽き、中央値は史実と同じ年

段階2 モンテカルロ1万回(相関あり)。判断時点の不確実性を分布で置き、五つの形で回した。指標を切り替えると並び替わる ›

指標
58%
史実の形(A)が破綻する確率
破綻年の中央値は2015年3月期で、史実と一致する。6機のまま為替と資金だけ手当てしても(D)45%が破綻する
どの形でも計画の価値の中央値は負、上位5%は+841〜+1,383億円。構造で変わるのは、外れたときに会社が残るかどうか
破綻を支配する変数:為替(+0.66)、A380の搭乗率(−0.29)、737の搭乗率の低下(+0.22)
入力の幅と相関の仮定 ›
A 史実/B 2機確定+4オプション/B2 B+為替固定+資金確約/C B2+解約の上限+納入前ゲート/D 6機のまま為替と資金だけ手当てp.4

同じ経路でも、2機とゲートの形なら損失35億円で737に戻れた計算になる

段階3 確率を外した一本。為替79→83→100→110→120円、737の搭乗率▲3→▲11→▲12→▲13ポイント、納入時に借りられない。形を切り替えると差が残る ›

投資の形
点線は実際の現金(公表値)
2015年3月期
史実の形が破綻する年度(モデル)
本業の営業CFは119→42→▲22→▲63億円。そこへ457億円の支払いが円安で606億円に膨らんで来る。史実でも2014年に支払いが止まり、2015年1月に民事再生を申し立てた
実際の15年3月期の現金24億円は、2015年1月の民事再生の申し立て後の残高。届け出られた請求は3,089億円(申し立て時の負債711億円+帳簿に載っていなかった違約金・将来のリース料 約2,380億円)。確定1,543億円、弁済161億円
機数だけ2機にしても(B)、為替と資金も手当てしても(B2)、この経路では破綻する。ゲートで戻る形だけが残る
経路を兆候に翻訳する ›
実際の現金は各年3月末の公表値(306→232→71→24億円)。モデルは14年3月期までも実際より現金を多く見ている(165億円に対し実際71億円)。年次モデルで四半期の資金繰りは見ていないp.5

機数、為替と資金、解約の上限とゲートは、別々の穴を塞ぐ

段階4 構造案の比較。打ち手を順に足すと、許容の線に対する不足が埋まるか残るかが見える。オン・オフで確かめる ›

① 2機だけ確定し、4機はオプション
② 為替を固定し、納入時の資金を確約
③ 解約の上限条項と、2013年3月のゲート
58%
A380が原因の破綻(本業だけなら生き残れた試行が、A380のせいで倒れた割合)
案A:三本の線をすべて超える。前払金187億円は上限150億円を超え、損失は悪い側5%で464億円。会社全体の破綻は58%
代償:基準ケースの計画の価値は+496億円から+334億円に減る。上位5%の上振れも+1,383億円から+841億円になる
オプションは行使の条件まで設計して初めて効く。行使するのは、2割円安でも路線が損益分岐を超え、本業の営業CFが50億円以上あり、行使後2年分の支払いを現金と確約済みの借入で払えるときだけ
三本目の線は分析の途中で足した。損失の額だけでは、会社をなくす危うさが見えなかったため。A380が原因の破綻は10%まで
採る案・捨てる案と理由 ›
モンテカルロ(相関あり、1万回)。A380が原因の破綻=本業だけなら生き残れた試行が、A380のせいで倒れた割合。前払金は有価証券報告書の支出予定からp.6

発動点は震災の年には鳴らず、2012年7月に鳴る

段階5。全路線の搭乗率の前年差(会社が毎月公表)に、「▲8ポイント以下が3か月連続」という線を当てた。順に組み上がる ›

棒は前年同月との差(ポイント)。2011年度は震災後の落ち込みが最大▲6.7で、線に届かない。2012年4〜6月に3か月連続で線を超える
発動点閾値史実に当てると
T0 契約前資金の確約なし/為替の手当てなし/解約の上限なし2011年2月に三つとも該当。確定発注しない
T1 搭乗率前年差▲8ポイント以下が3か月連続2012年7月上旬。新たな解約不能契約を止める
T2 予想通期予想の下方修正が2回2013年1月30日。オプションの判断を凍結
T3 資金本業の営業CF2013年5月9日(11億円<45億円)
ゲート2013年3月末に搭乗率▲8以上か営業CF50億未満両方該当。確定2機を解約し737に戻る
ゲートの判定は、メーカーの解除通知の約14か月前、A330初号機の受領の約13か月前にあたる
ゲートなしの破綻24%が、2013年3月のゲートで14%、支払いの前にもう一度判定すると10%。A380を買わなくても7%は破綻する
ゲートに意味はあるか、止められない事情 ›
出典:スカイマーク搭乗実績(会社ウェブサイト、翌月上旬公表)、決算短信、適時開示p.7

証人の指摘5点を検算し、結論は倒れないが強さは下がった

同じAIが自分の設計を叩くと同じ穴に落ちる。別のAI(ChatGPT)を証人として呼び、指摘をモデルで検算した。指摘を押すと検算が開く ›

証人は票を持たない。検算できた指摘だけを採り、「致命」の判定はこちらでやり直した。効いているのは機数とゲートで、解約の上限条項は悪い側の尾を切る役目だと分かった
① メーカーが受けるか2機確定と解約の上限は交渉で通るのか。通らなければ机上の案検算 ›
② 鳴っても戻れるか支配株主がいて社外取締役がいない体制で、実際に解約できるか検算 ›
③ 戻った先は固いか737に戻れば稼げる、は再建後の実績に頼った後知恵ではないか検算 ›
④ 手当ての費用為替固定と資金確約の費用と、信用力の限度が入っていない検算 ›
⑤ 閾値は後付けでないかゲートの誤報と見逃しの頻度が検証されていない検算 ›
41%
確定を4機にし、解約の上限条項も通らない場合に、損失が180億円を超える確率
2機確定なら、上限条項が通らなくても0.1%。史実の経路での損失は93億円で、線の内側にある。効いているのは機数とゲート
変えた条件破綻180億超
案C(全部通る)14%0%
上限条項が通らない15%0.1%
4機確定(2011年2月の契約)24%41%
鳴っても戻らない24%0%
検算の一覧と、証人が見つけなかった点 ›
証人喚問:2026年9月、反証と未言語化の前提の2軸で各1回。検算は著者のモデルで実施p.8

四つの数字は人が置き、採る形と戻るかどうかも人が決める

この分析でどこまでがAIで、どこからが人だったか。列を押すと、その列だけが浮かぶ ›

見る列
人が置いた仮定の一覧 ›
段階AIがやったことヒトが決めたこと(今回)分析の後にヒトが決めること
0 設定──目的、許容損失180億、戻れない額の上限150億、踏まない領域三つ、止める人(社外取締役)。A380が原因の破綻10%までは分析の途中で足した線この枠を次の大型投資の審査に使うか
1 逆算破綻する境界(搭乗率▲8.8、為替95円)と計画の価値の計算その境界が過去の実績の範囲にあるかの判定。運航費・運賃・為替の転嫁率の置き方「期待値はプラスだが会社を賭けている」という判定を受け入れるか
2 分布1万回の試行、支配変数の抽出幅と相関の値(分析者が仮置きし、記録)仮置きを承認するか置き換えるか。無異論も記録する
3 ストレス史実と同じ経路での各案の帰結どの一本を置くかどの兆候を見張るか
4 構造五つの案の破綻確率と損失の計算案Cを採り、他を捨てる(本来は判断者が決める)計画の価値を162億円減らしても2機で始めるか。メーカーが条件を受けなければやらないと決められるか
5 発動点公表値への当てはめ、誤報と見逃しの計算閾値(▲8ポイント)、ゲートの時期、発動者鳴ったら前払金を捨てて実際に戻るか。戻らなかった判断も記録するか
証人別のAIが指摘5点。検算はモデルで実施証人を呼ぶと決めたこと。指摘の採否と判定のやり直し交渉の実務を知る人に、2機確定と解約の上限が通るかを確かめる
AIに渡さなかった作業:需要予測の精度を上げること。当てにいく作業を渡すと、説明が整うほど人は納得し、止める判断が遅れる
手順:岡野原大輔『ヒトとAI』(岩波新書、2026)の考え方を、不可逆な投資判断の6段階に当てはめたもの(著者)p.9
はじめに

2011年、スカイマークはエアバスの超大型機A380を6機発注し、4年後に民事再生を申し立てました。この資料は、その発注を題材に、もし判断の時点に戻れたら、どのような形で投資を組めばよかったのかを考えたものです。後から分かったことではなく、2011年の時点で公開されていた情報だけを使っています。

期待値がプラスの投資でも、負けたときに会社が残らない形で約束してしまうことがあります。大きく、戻れない投資の前に何を決めておけばよいのか。その手順を実際の事例に当てはめて試しました。

自分が同じ立場に置かれたらどう組むかを、一緒に考える材料になればと思います。右下の「▶ 音声」で解説が流れ、数字を押すと根拠が開きます。

鷲巣大輔(2026年9月)

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