基本シナリオに振れ幅を持たせると、4回に1回は資金が尽きる形だったのではないか

スカイマークのA380発注(2011年)を、判断の時点に戻って6段階の手順で設計し直した試算。数字を押すと根拠が開く ›

18.8億ドル
6機の発注総額。当時の為替で1,559億円。2011年6月の増資後の手元現金347億円の4.5倍(契約時の164億円なら9.5倍)
28%
このモデルで、基本シナリオに為替や搭乗率の振れ幅を持たせて1万回走らせたとき、史実の形で資金が尽きる割合(増資などの追加の手は入れていない)
49億円
2機確定と数字のゲートで組んだ場合の、史実と同じ経路での損失(試算。実際の支払いペース。支出予定どおりなら35億円)。史実では6機分の前払金253億円が戻らなかった
経路
何が、いつ起きたか
2010年の基本合意から、2015年の民事再生、2022年の再上場まで
p.2 ›
段階0→1 設定と逆算
基準ケースは成り立つが、線までが近い
搭乗率▲8.8ポイントか、為替95円で破綻する
p.3 ›
段階2 分布
基本シナリオでも4回に1回は資金が尽きる
計画の価値の平均はどの形もプラス。形で変わるのは会社が残るかどうか
p.4 ›
段階3 ストレス
史実と同じ経路を、二つの形で走らせる
6機確定は2015年3月期に破綻。2機とゲートなら737に戻って存続
p.5 ›
段階4 選択肢
6機一括を外すと選択肢は四つ
負けたときの損、平均の価値、成り立つ条件を並べる
p.6 ›
段階5 発動点
兆候は円安より前に出ていた
2012年4月の搭乗率。発動点は2012年7月に鳴る
p.7 ›
証人喚問
別のAIに設計を叩かせて検算した
指摘5点。結論は倒れないが、強さは下がった
p.8 ›
参謀の提案
6機の構想に向けて、最初の契約を2機に
止めるのは人でなく契約。負けても会社が残る形で挑む
p.9 ›
段階6 ヒトとAI
人が置いた四つの数字が結論を決めた
採る形と、鳴ったときに戻るかどうかも人が決める
p.10 ›
出典:スカイマーク有価証券報告書(2011年3月期〜2015年3月期)、決算短信、適時開示、報道。数値の多くは著者の試算。金額は億円p.1

兆候は円安より前、2012年4月の搭乗率から出ていた

2010年の基本合意から2022年の再上場まで。出来事を押すと出所が開く ›

4.5倍
発注総額 ÷ 判断時点の手元現金
発注総額1,559億円は、本業の営業キャッシュフロー148億円の10.5年分にあたる
支払いは3年間は年44〜82億円、4年目の2015年3月期に457億円が集中する計画だった
為替予約なし、社外取締役ゼロ、納入時の資金は「検討」。三つとも2011年6月の有価証券報告書に書かれていた
損失を戻せなくした構造を見る ›
出典:スカイマーク有価証券報告書・決算短信・適時開示、各社報道(各出来事の根拠パネル参照)p.2

このモデルでは、搭乗率が1割下がるか95円で資金が尽きる

段階1 逆算。基本シナリオ(A380の搭乗率70%、83円、本業が年130億円を稼ぐ)では成り立つ。線までの距離を見る。スライダーを動かすと再計算 ›

式:現金=前年の現金+本業の営業CF(130億−1円あたり3.3億−搭乗率1ポイントあたり8億)−その他投資30億−A380の支払い(ドル×為替)+納入時の借入+A380路線の貢献
+496億円
A380計画だけの正味現在価値(割引率8%)。左の線とは別の計算
破綻しない。最低の現金は304億円
破綻する境界:737の搭乗率▲8.8ポイント(史実は▲10.1)/為替95円(直前5年の幅は80〜124円)
A380の搭乗率が65.6%を下回ると計画の価値はマイナス。納入時に借りられなければ、他が基準どおりでも破綻
左の線は会社全体の期末の現金(737の本業を含む)で「会社が持つか」を見る。右の数字はA380に関わる出入りだけを割り引いた値で「張る価値があるか」を見る
感度と読み方の注意 ›
モデル:会社の資金繰りとA380路線の採算を年次で見る、著者作成の試算モデル。構造A(史実の形)。運航費・運賃・為替の転嫁率は人が置いた仮定。計画の価値は残存価値を含み、破綻時は737の本業を失う損を含まないp.3

このモデルでは、基本シナリオに振れ幅を持たせると、史実の形は28%で資金が尽きる

段階2 モンテカルロ1万回(相関あり)。基本シナリオ(会社の公表値と著者の推定)に、為替や搭乗率の振れ幅を持たせて五つの形を回した。振れ幅も著者が置いた。シナリオと指標を切り替える ›

シナリオ
指標
28%
史実の形(A)で資金が尽きる確率
基本シナリオに、為替や搭乗率の振れ幅を持たせた。それでも4回に1回は資金が尽きる。6機のまま為替と資金だけ手当てしても(D)14%。案Cなら5.5%
計画の価値の平均はどの形でもプラス(史実の形+538億円、案C+381億円)。形で変わるのは、負けたときに会社が残るかどうか
資金が尽きるかを左右する順:円安(1位)、A380の搭乗率の低さ(2位)、737の搭乗率の落ち込み(3位)
入力の幅と相関の仮定 ›
A 史実/B 2機確定+4オプション/B2 B+為替固定+資金確約/C B2+解約の上限+納入前ゲート/D 6機のまま為替と資金だけ手当てp.4

同じ経路でも、2機とゲートの形なら損失約49億円で737に戻れた計算になる

段階3 確率を外した一本。為替79→83→100→110→120円、737の搭乗率▲3→▲11→▲12→▲13ポイント、納入時に借りられない。形を切り替えると差が残る ›

投資の形
点線は実際の現金(公表値)
2015年3月期
史実の形が破綻する年度(モデル)
本業の営業CFは119→42→▲22→▲63億円。そこへ457億円の支払いが円安で606億円に膨らんで来る。史実でも2014年に支払いが止まり、2015年1月に民事再生を申し立てた
実際の15年3月期の現金24億円は、2015年1月の民事再生の申し立て後の残高。届け出られた請求は3,089億円(申し立て時の負債711億円+帳簿に載っていなかった違約金・将来のリース料 約2,380億円)。確定1,543億円、弁済161億円
機数だけ2機にしても(B)、為替と資金も手当てしても(B2)、この経路では破綻する。ゲートで戻る形だけが残る
経路を兆候に翻訳する ›
実際の現金は各年3月末の公表値(306→232→71→24億円)。モデルは14年3月期までも実際より現金を多く見ている(165億円に対し実際71億円)。年次モデルで四半期の資金繰りは見ていないp.5

6機一括を外すと選択肢は四つ。得るものと、成り立つ条件が違う

段階4 選択肢の比較(基本シナリオ)。史実の形(A)は前払金だけで上限150億円を超えるので外す。採否はここでは決めない。選択肢を押すと、成り立つ条件が開く ›

選択肢
A 史実DBB2C
前提:打ち手で決まるもの
確定する機数6機6機2機+購入権42機+購入権42機+購入権4
手当てなし為替・融資なし為替・融資為替・融資・上限・ゲート
前払金(上限150億円)187187626262
結果:基本シナリオで1万回試算
資金が尽きる確率28%14%10%7%5.5%
うちA380が原因(上限10%)25%12%8%4%3%
損失・悪い側5%(許容180億円)46944916414835
負けたときの損の最大62061645549262
計画の価値・基本シナリオ+496+567+267+334+334
計画の価値・1万回の平均+538+642+352+383+381
金額は億円。計画の価値は資金が尽きた年で計算が止まるため、資金が尽きやすい形(A・D)ほど平均が高めに出る(p.3)。手当ての「為替・融資」=為替予約と納入時の融資の確約、「上限」=解約の負担の上限条項。色の付いた数字は、人が先に置いた線を超えているもの
28%
A 史実の形:資金が尽きる確率
前払金だけで187億円になり、上限150億円を超える。三本の線をすべて超えるので、選択肢から外す
成り立つ条件:──
購入権は、その後の支払いに耐えられるときだけ行使する。今の調子だけで行使すると、案Bの資金が尽きる確率は20%になり、2機だけ(10%)より悪くなる
選択肢と条件の一覧 ›
モンテカルロ(基本シナリオ、相関あり、1万回)。A380が原因=本業だけなら生き残れた試行が、A380のせいで資金が尽きた割合。前払金は有価証券報告書の支出予定からp.6

発動点は震災の年には鳴らず、2012年7月に鳴る

段階5。全路線の搭乗率の前年差(会社が毎月公表)に、「▲8ポイント以下が3か月連続」という線を当てた。順に組み上がる ›

棒は前年同月との差(ポイント)。2011年度は震災後の落ち込みが最大▲6.7で、線に届かない。2012年4〜6月に3か月連続で線を超える
発動点閾値史実に当てると
T0 契約前資金の確約なし/為替の手当てなし/解約の上限なし2011年2月に三つとも該当。確定発注しない
T1 搭乗率前年差▲8ポイント以下が3か月連続2012年7月上旬。新たな解約不能契約を止める
T2 予想通期予想の下方修正が2回2013年1月30日。オプションの判断を凍結
T3 資金本業の営業CF<A380の年間支出2013年5月9日(11億円<45億円)
ゲート2013年3月末に搭乗率▲8以上か営業CF50億未満両方該当。確定2機を解約し737に戻る
ゲートの判定は、メーカーの解除通知の約14か月前、A330初号機の受領の約13か月前にあたる
基本シナリオでは、ゲートが鳴るのは5%。資金が尽きる確率は6.6%から5.5%へ(支払いの前にもう一度判定すると3.7%)。効くのは p.5 のような悪い道筋に入ったとき
ゲートに意味はあるか、止められない事情 ›
出典:スカイマーク搭乗実績(会社ウェブサイト、翌月上旬公表)、決算短信、適時開示p.7

別のAIの反論5点を受けて感度を再計算した。結論は倒れないが、強さは下がった

同じAIが自分の設計を叩くと同じ穴に落ちる。別のAI(ChatGPT)に反論を出させ、著者のモデルで感度を再計算した。論点の洗い出しであって独立した検証ではなく、実務家のレビューは外部レビュー前でまだ。指摘を押すと再計算が開く ›

証人は票を持たない。モデルで再計算できた指摘だけを採り、「致命」の判定はこちらでやり直した。効いているのは機数とゲートで、解約の上限条項は悪い側の尾を切る役目だと分かった
① メーカーが受けるか2機確定と解約の上限は交渉で通るのか。通らなければ机上の案検算 ›
② 鳴っても戻れるか支配株主がいて社外取締役がいない体制で、実際に解約できるか検算 ›
③ 戻った先は固いか737に戻れば稼げる、は再建後の実績に頼った後知恵ではないか検算 ›
④ 手当ての費用為替固定と資金確約の費用と、信用力の限度が入っていない検算 ›
⑤ 閾値は後付けでないかゲートの誤報と見逃しの頻度が検証されていない検算 ›
12%
確定を4機にし、解約の上限条項も通らない場合に、損失が180億円を超える確率
2機確定なら、上限条項が通らなくても0.4%。史実の経路での損失は93億円で、線の内側にある。効いているのは機数とゲート
変えた条件資金が尽きる180億超
案C(全部通る)5.5%0%
上限条項が通らない5.7%0.4%
4機確定(2011年2月の契約)8.7%12%
鳴っても戻らない6.6%0%
検算の一覧と、証人が見つけなかった点 ›
証人喚問:2026年9月、反証と未言語化の前提の2軸で各1回。検算は著者のモデルで実施p.8

参謀の提案:6機の構想を取りに行くために、最初の契約を2機にする

ここからは分析ではなく提案。2011年の時点で、経営トップと取締役会に出す1枚(たたき台)。

D 6機+手当て
6機を確定し、為替予約と融資の確約だけ取る
資金が尽きる14%/損の最大616億円/平均+642億円
B 2機+購入権
2機を確定し、4機は条件を満たしたら買える権利
10%/455億円/+352億円
B2 +為替・融資
Bに為替予約と納入時の融資の確約を足す
7%/492億円/+383億円
C +上限・ゲート提案
B2に解約の負担の上限と2013年3月のゲートを足す
5.5%/62億円/+381億円
提案長距離国際線への挑戦を支持します。6機で路線網をつくる構想は、勝つための正しい絵だと考えます。その6機に確実にたどり着くために、最初の契約を2機にすることを提案します(案C)。
理由資金が尽きる確率を5.5%に抑え、負けたときの損を最大62億円に止めます(上限条項が取れなくても、史実の経路なら93億円で戻れる)。6機一括は4回に1回、6機のまま手当てしても7回に1回、資金が尽きます。
代償案Dと比べ、平均の価値で261億円、うまくいったとき(上位5%)で約600億円を手放します。基本シナリオ1通りでは496億円が334億円になります。
2機で路線は組めるか1機あたり年300往復として、2機で年600往復。1路線を毎日飛ばせる規模です。国際線の固定費(年20億円)は機数によらず全額を負担する前提で計算しており、2機の割高さは数字に入っています。予備機がない点は残る課題です。
6機への道残り4機は、条件を満たせば買える権利にします(判断は初号機の運航1年後)。計画どおりに近い未来(全体の57%)では7割、1万回全体でも56%で買い足し、6機がそろいます。
交渉の順番①2機確定と解約の負担の上限 → ②上限が取れなければ2機確定とゲート → ③確定4機以上には進まない(損失が180億円を超える確率12%)。為替の固定と納入時の融資の確約は、どの段でも取ります。
止めるのは契約2013年3月の判定基準(搭乗率と本業の稼ぎ)を、融資の約束事項とメーカーとの契約に書き込みます。割れば残り4機の購入権は失効し、追加の融資も止まります。続けたいときは、経営トップが貸し手と取締役会に例外を申し出て、理由を記録します。戻るときに失うのは前払金約49億円です(史実では6機分の253億円が戻らなかった)。
進め方経営トップと1対1 → 財務担当の役員と主要な貸し手 → 取締役会の順に出します。採られなかった場合も、提案と理由を議事録に残し、発動点の見張りは続けます。
計画どおりに近い未来=1万回のうち、A380の搭乗率68%以上かつ737の落ち込み2ポイント以下の試行(全体の57%)。そこでの買い足しは69%、ゲートでの解約は4%。数字の出所は p.4〜p.8
この1枚は人が書く。分析が示すのは、選択肢ごとの資金が尽きる確率、損失、平均の価値と、成り立つ条件までp.9

四つの数字は人が置き、採る形と戻るかどうかも人が決める

この分析でどこまでがAIで、どこからが人だったか。列を押すと、その列だけが浮かぶ ›

見る列
人が置いた仮定の一覧 ›人が変えたこと ›
段階AIがやったことヒトが決めたこと(今回)分析の後にヒトが決めること
0 設定──目的、許容損失180億、戻れない額の上限150億、踏まない領域三つ、止める仕組み(融資の約束事項と契約条項)。A380が原因の破綻10%までは分析の途中で足した線この枠を次の大型投資の審査に使うか
1 逆算破綻する境界(搭乗率▲8.8、為替95円)と計画の価値の計算その境界が過去の実績の範囲にあるかの判定。運航費・運賃・為替の転嫁率の置き方「計画どおりならプラスだが会社を賭けている」という判定を受け入れるか
2 分布1万回の試行、支配変数の抽出、悲観シナリオとの比較基本シナリオの置き方(公表値にない搭乗率と本業の稼ぎ)、振れ幅と相関仮置きを承認するか置き換えるか。無異論も記録する
3 ストレス史実と同じ経路での各案の帰結どの一本を置くかどの兆候を見張るか
4 選択肢四つの選択肢の確率・損失・平均の価値の計算どの選択肢を並べ、何を成り立つ条件として書くかどの選択肢を採るか
5 発動点公表値への当てはめ、誤報と見逃しの計算閾値(▲8ポイント)、ゲートの時期、発動者鳴ったら前払金を捨てて実際に戻るか。戻らなかった判断も記録するか
証人別のAIが指摘5点。検算はモデルで実施証人を呼ぶと決めたこと。指摘の採否と判定のやり直し交渉の実務を知る人に、2機確定と解約の上限が通るかを確かめる
提案選択肢ごとの数字を渡すまで案Cを選ぶ理由、抵抗への答え、言い方(p.9)代償を受けるか。メーカーが受けなければやらないと決められるか。鳴ったら戻るか
AIに渡さなかった作業:需要予測の精度を上げること。当てにいく作業を渡すと、説明が整うほど人は納得し、止める判断が遅れる
仮定の効き方の例:悲観シナリオ(A380の搭乗率65%、運賃は平均5%低い)では、計画の価値の平均はマイナスになり(史実の形−111億円)、史実の形は58%で資金が尽きる。採算はこの二つの見立てで割れるが、形の順番は変わらない
手順:岡野原大輔『ヒトとAI』(岩波新書、2026)の考え方を、不可逆な投資判断の6段階に当てはめたもの(著者)p.10
はじめに

2011年、スカイマークはエアバスの超大型機A380を6機発注し、4年後に民事再生を申し立てました。この資料は、その発注を題材に、もし判断の時点に戻れたら、どのような形で投資を組めばよかったのかを考えたものです。後から分かったことではなく、2011年の時点で公開されていた情報だけを使っています。

計画どおりに進めば儲かる投資でも、負けたときに会社が残らない形で約束してしまうことがあります。大きく、戻れない投資の前に何を決めておけばよいのか。その手順を実際の事例に当てはめて試しました。

自分が同じ立場に置かれたらどう組むかを、一緒に考える材料になればと思います。右下の「▶ 音声」で解説が流れ、数字を押すと根拠が開きます。

鷲巣大輔(2026年9月30日公開、10月1日更新)

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